融資の際に担保と個人保証のどちらも必要としないこと。無担保かつ無保証の融資制度としては、制度上は国民生活金融公庫の新創業融資制度(上限750万円)、マル経融資(上限1000万円)などがあるが、たいていは本人保証や連帯保証人が求められる。
しかしながら,内部統制体制の構築について過剰ともいえる情報が氾濫しているにもかかわらず,内部統制体制が構築された後に役員の法的責任がどのように変化するのか,という観点はあまり意識されていないように思われる。内部統制体制が構築されることにより,役員のもとにはこれまで以上に様々なリスクを包含した情報が届けられるようになるはずである。そのとき,役員が法的責任を回避するためには何をすべきなのだろうか。
例えば,従業員による不正取引行為が発覚した場合や,会社の業務の一部が法令違反に該当することが判明した場合,有価証券報告書の作成過程に容易には修復できない不備があることが判明した場合などに,役員として具体的に求められる対応は何であろうか。これらの点については,専門家による議論も少なく,いまだ明確であるとはいえない。
本稿では,会社法上の内部統制体制に焦点をしぼり,取締役や監査役など会社役員の視点から,内部統制体制の存在を前提として法的リスク回避のために求められる対応を明らかにすることを試みたい(※1)。
(※1)本記事は平成19年7月24日大阪で行われたイデア
FXの内部統制セミナーにおける筆者の講演録に加筆したものである。
会社法上の内部統制体制は何を目指すのか
(1)目的の異なる内部統制
一般に「内部統制体制」と呼ばれるものには目的の異なる複数の内容が混在しており,
くりっく365としてはそれぞれの相違と役割を正確に認識しておくことが重要である。
まず会社法上の内部統制とは,企業不祥事の多発を背景としたもので,業務執行者の違法行為の防止を主たる目的とするものである。いわゆる「コンプライアンス体制」と呼ばれるものはこれである。役員がみずからの目と耳で業務執行者を監視できない中規模以上の株式会社において要求されるものである。
これに対して,金融商品取引法上の内部統制とは,上場会社のみに適用されることからもわかるとおり,有価証券報告書に含まれる会社の財務書類等の正確性を担保するためのものであり,正確な財務書類を作成・公表し,証券取引市場における適正な株価の形成機能を目的とするものである。
(2)会社法が定める内部統制体制
今日の日本では,会社にとって法令違反行為の発生が大きな事業リスクとなっている。例えば,食品衛生法,独禁法,特定商取引法,放送法など,会社が事業を行うにあたり遵守すべき法令は数多いが,ひとたび法令違反行為が起きたとき,対策費や風評被害により企業に莫大な損害が生じることは過去の実例が示すとおりである。損害防止のため,上場企業に対しては事業報告の内容として2006年5月より社内における内部統制体制の整備情況の開示が要求されているが,詳細な規則のある金融商品取引法とは異なり,会社法の内部統制体制について何を整備すべきかが十分に理解されていないように思われる。
会社法および同施行規則が規定している内部統制体制の内容を確認しておこう。そこには様々な要素が含まれているが,コンプライアンス確保の観点からは,とくに【表1】の(1)(2)(4)(6)が重要であるといえる。
なぜ会社法で内部統制体制が要求されるのか
(1)取締役の監視義務
内部統制体制の構築は新しい会社法で初めて要求されたものではない。それは,取締役が会社に対して負っている善管注意義務に由来するものである。すなわち,取締役会設置会社において法で定められた取締役会による業務執行の決定および取締役の職務執行の監督が適正かつ合理的に行われるためには,その構成員である個々の取締役が,善良な管理者の注意をもって,会社の業務および財産の状況を的確に把握し,他の取締役の職務執行を適切に監視することが必要であり,これは一般に「取締役の監視義務」と呼ばれている(※2)。
最高裁判例によれば,取締役の監視義務は,取締役会に付議された事項のみならず,それ以外でも,会社の業務執行の全般に及ぶものであり,取締役は必要があればみずから取締役会を招集し,または取締役会の招集を求めて取締役会を通じて
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の業務執行が適正妥当に行われることを確保する義務を負っているとされる(※3)。
従来,監視義務違反を理由とする取締役の個人責任は小規模株式会社の倒産事例において認められることが多かったが,株主代表訴訟の隆盛により大規模な会社における役員の監視義務が問題となってきたわけである。監視義務の存在を前提とすれば,現代の大企業の役員は「組織が複雑なので不祥事の存在を知らなかった」ではすまされない。不祥事を知らないこと自体が善管注意義務違反であり,個人責任発生の原因となるのである。
不祥事を把握していなかった役員に対する裁判所の厳しい姿勢を示すものとして,神戸製鋼所株主代表訴訟事件がある。この事件では,同社で何十年も行われていた総会屋への利益供与および裏金の捻出について,株主が元社長らを被告として利益供与による損失額などの会社に対する返還を求める代表訴訟が提起され,元社長らは責任を認めて3億円余りを会社に支払うことで和解した。和解成立に際して裁判所は「企業のトップとしての地位にありながら,内部統制システムの構築等を行わないで放置してきた代表取締役が…違法行為について,これを知らなかったという弁明をするだけでその責任を免れる…のは妥当でない」という所見を示している。
(2)善管注意義務の履行と内部統制体制
会社法上では大会社について内部統制体制に関する事項を取締役(会)で決定することのみが要求されているが(※4),役員の善管注意義務を考慮するならば「内部統制体制を整備しない」という決定など現実的にあり得ないだろう。また,会社法で決定が要求されていない大会社以外の会社についても,取締役が自己の目と耳で監視できない規模の会社については,内部統制体制を構築しておかなければ,万一不祥事が起きて会社に損害が生じた場合には,取締役は監視義務違反の個人責任を問われる可能性がある。
そうだとすると,会社法で要求される内部統制体制とは,第一次的に,業務執行全般を監督する役割をもつ取締役の善管注意義務の履行を支援するための体制でなければならず,第二次的には,取締役の業務執行を監査する権限を有する監査役の善管注意義務を履行するために役立つものでなければならない。
取締役に対しては,その善管注意義務の履行として,会社に損害をもたらすような不祥事の発生を未然に防止することと同時に,実際に不祥事が発生した場合に適切な対応をして会社の損害を最小限に食い止めることが要求される。したがって,会社法上の内部統制体制は,他の役員および従業員の法令違反行為を事前に防止するだけではなく,不祥事は不可避的に発生することを前提にして,それが発生した後に役員が対応するためのシステムであることが望まれる。
(※2)取締役会非設置会社の取締役も,善管注意義務がある以上,同様の監視義務を負っていると解される。
(※3)最判昭48.5.22民集27巻5号655頁参照。
(※4)会社法348条3項4号・4項,および同法362条4項6号・5項参照。
役員の地位による法的責任の相違大和銀行株主代表訴訟事件
現実の会社内部にはいろいろな地位の役員がおり,それぞれに権限も異なっている。そこで,すべての役員が同じように監視義務違反に対する法的責任を負わなければならないのか,という疑問が生じる。以下では,大和銀行株主代表訴訟事件(※5)を題材にとりつつ,この点を検討してみたい。
(1)事件の概要
本件は,大和銀行のニューヨーク支店で現地採用した従業員が,無断で米国財務省証券の売買を行い,同銀行に11億ドルという巨額の損失を与えたことに加え,事実を知らされた同銀行の役員らが不祥事の隠蔽を図った結果,連邦当局から罰金を命じられ,米国からの事業撤退を余儀なくされ,同銀行に損害を生じさせたという事案である。
裁判所が,取締役会で内部統制システムの大綱を決定する義務を認めた点で,わが国におけるリーディング・ケースとして知られる。しかし実際には,内部統制体制構築義務違反を理由として善管注意義務違反を認定されたのは現場の決定権をもつ当時のニューヨーク支店長のみであり,その他の取締役は法令違反行為に関与したという理由で善管注意義務違反の責任を問われたものである。